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エンジニアのためのお祭りの技術カンファレンスをオンラインで実施する|YAPC::Japan::Onlineの場合

もう1ヶ月5ヶ月経ってしまいましたが、YAPC::Japan::Online 2022にご参加いただいた皆さま、関わっていただいた皆さま、ありがとうございました。「楽しかった!」「YAPCだった」といった感想を聞けて、ホッとしました。5ヶ月前に

最高のスタッフの打ち上げの様子

今回、初めてオンラインで大規模にYAPCを運営したのですが、けっこう試行錯誤だったので、その辺をお伝えできればと。

YAPCとは

"YAPCは、Yet Another Perl Conferenceの略で、Perlを軸としたITに関わる全ての人のためのカンファレンスです。 Perlだけにとどまらない技術者たちが、好きな技術の話をし交流するカンファレンスで、技術者であれば誰でも楽しめるお祭りです。"と公式サイトでうたってます。要はエンジニアのためのお祭りです!

YAPC::Tokyo 2019のKeynoteの様子 / ©JPA

しかし、この「お祭り」という言葉。オンラインでどうするよ?無理じゃないか?お祭りにならないならYAPCと名乗れない・・と運営を大いに悩ませました。

自己紹介

申し遅れたのですが、id:kfly8です。こばけんと呼んでもらえると嬉しいです。 普段はエンジニアの組織開発、人材開発、技術広報、採用、事業支援など組織のパフォーマンスをいい感じにしてくためにガンバッテマス。

私とYAPCとの関わりは、裏方での関わりが長く、2013年からスタッフを始めて、2019年度からJapan Perl Association の理事をやらせていただき、前回のYAPC::Tokyo 2019 ではリーダーをしていました。今回のYAPCでは、サブリーダーとして、企画、進行管理、予算管理、スポンサー対応、スピーカー対応、ノベルティ発注、学生交流企画、サイト更新などしていました。まとめると、Perlコミュニティが好きです。

下準備

技術トークをただオンライン配信して、オフラインのコンテンツを踏襲しても、「YAPC」になるとは思えず、スタッフの話し合いは根本的なことから話すことが多かったです。いくつかトピックを紹介していきます。

下準備①:技術カンファレンスへの期待、課題のヒアリング

技術カンファレンスを取り巻く状況が変わっていると感じて、過去YAPC::Japanを主催した人と話す場を2021年4月に設けました。

話し合いのアジェンダ。当時はミニカンファレンスのJapan.pmの建て付けだった。

思い返すと、このヒアリングは成功の鍵だったなと。技術カンファレンスあるいはYAPCに対して、どんなことを期待や課題が見えた場でした。例えばこんな感じ。

  • 機能的な価値
    • 「実践的で具体的な手段が知りたい。例えば、AWSを勉強したければAWSの公式ドキュメントをまず読むのが正解だと思う。登壇資料、ブログがあればインプットはいくらかできる。情報に溢れた今、わざわざ技術カンファレンスに参加する意味は何か?」
    • YAPC::Japanでは、Perlに長く関わる人の先鋭的な話が聞けるが、初学者の目線で見れば難しい。最近はどう書くのが"フツウ"なのかなど、初学者でもわかりやすい、学びやすい話もほしい。」
  • 情緒的な価値
    • 「お祭り感。例えば、Danさんが酔っ払っているのを見ると楽しく感じる。」
    • 「ライブ感。例えば、ライブコーディングが『スラスラできました!』じゃなく、参加している人みんなで『あーだこーだ』と言い合いながら、やっとできるのも楽しい。」
    • YAPCに参加すると人と繋がる。ネット上だけの存在に会える。刺激になる。」

id:onagatani id:shinotra id:anatofuz id:codehex id:itoken417 kawakami 協力ありがとうございました!

下準備②:仲間を集める

YAPCへの期待、課題をヒアリングできたものの、正直、最初の壁はリソース不足でした。 2021年度からJapan Perl Associationの理事体制は代わり、理事はid:karupanerura id:xtetsuji id:papix と私の4人だけとなり、本業も多忙な4人で技術カンファレンスを大規模に開催することは難しい状況でした。そこで、コアスタッフ募集をしました。

blog.yapcjapan.org

結果、最高のスタッフに恵まれました。 id:Pasta-K, id:nyanco15, ariaki, godan09, id:tomcha0079 osima id:nagayama がいなければ、間違いなくYAPCは開催できなかったです。一緒にスタッフができて心から良かったです。感謝。

下準備③:お祭り感を演出する三つの企画

スタッフで話し合いを重ね、お祭り感、参加した感、ざわざわ感を得るための具体的な企画が3つ見えてきました。

1. オンラインの懇親会では参加型コンテンツがあった方が良い

YAPC::Tokyo 2019の懇親会。新型コロナが落ち着いたらやるぞ!/ ©JPA

オフラインの時の懇親会はこの写真のように大勢の人でわーーー!と話します。この一堂に会する懇親会は、オンラインでは同様にできないと早々に諦め、1から企画を考えていきました。

懇親会はYAPCの本編とばかりに、スタッフの懇親会にかける熱量は並々ならぬものがありました。「いいイベントには美味しいご飯」「面白い話、知らなかった話、刺激になる話が聞きたい、話したい」「『憧れのあの人』と話せたら嬉しいね」とこれを実現するアイデアを出していきました。

オンラインだと場の空気感を感じにくく、加え一斉に話されても聞き取れないので、何かしら参加できそうなコンテンツを用意する方向にまとまっていきました。

例えば、こんなアイデアが。

  • クイズ、ビンゴなど参加の敷居を下げられるかも?
  • 登壇者とかの話を聞くラジオがあっても良いかも?
  • 会話に入り込むのは難しいから、何か話すキッカケがほしいかも。順があらかじめ決まると良いかも?

結果、「誰でも好きな話をして良いアンカンファレンス」「初学者でも楽しめる、やんにゃ掛け合いのあるライブコーディング」に繋がりました。

自画自賛ですが、この2つのコンテンツはオンラインと相性が良いなと。オンラインの長所は、画面が見やすく声も通りやすいのでトークの視聴環境として良く、また、今までなら、すでに出来上がってる輪に入るのはむずしかったと思うのですが、オンラインだと輪の人数に制限がないので混ざりやすくなったなと。

オフラインの懇親会で輪に入る難度は高いの図

自分だけのイメージかもしれないですが、オンラインの懇親会は茶の間のテレビなんですよね。テレビでなくYouTubeとかでもいいんですが、一緒にコンテンツを見ながらリアタイでTwitterで感想をつぶやく体験、一斉に「バルス!」と言うちょっとした一体感、インタラクティブ感はオフラインの飲み会のそれとは違うんですが、そんな体験をイメージしてました。(伝わる?)

2. ノベルティ・飲食で、お祭り感がでる

オンラインの勉強会は、勉強会の会場まで移動することなく、ポチッとZoomのURLをクリックすればぬるっと参加することができるのは良いですよね。時短。

ただ、そこがデメリットでもあるなーと。

YAPCは非日常なので、ぬるっと始まるのは違うと。Twitterのタイムラインを見て「そういえば今日勉強会だった!」と急に気づくのも違う。甚平、浴衣を着て、出店で焼きそばを買う非日常が大切で、ノベルティが送られ、チキンが送られ、ビールが送られ、なんかTwitterのタイムラインがざわつき始めて、期待が高まって始まるのがお祭りだなと。

そんなわけで、ノベルティ、飲食を送ることは、すぐに決まりました。「YAPCチキン」「ピザハットさんのピザ」「ノベルティ送付」につながりました。実現できるかどうかが課題でした。

お祭りにはノベルティ

お祭りにはビール

3. ざわざわ感のあるサブコンテンツ

The Perl Conferenceに参加した時の写真。「廊下」にたくさん人がいた。

技術カンファレンスなので、技術トークは軸です。それは間違いないです。ですが、スライドは公開され、ブログも書かれ、YouTubeで動画も公開される時代。ので、今、その場だから感じられる雰囲気、ライブ感が大切だなと。せっかく2年ぶりに開催されたYAPCだから、オンラインであっても、周りの反応、笑い声、ツッコミがあるザワザワ感がほしいとスタッフで話しました。

ちょっと余談ですが、今回、ゲスト対談はゆーすけべーさんとうずらさんにお願いしました。この2人に関する個人的な思い出を少し。YAPC::Asia 2014で、ゆーすけべーさんはリーダーでうずらさんと私はコアスタッフでした。で、この時のベストトークうずらさんがとったんですよね。PHPの話で。

その舞台裏。ベストトークうずらさんだと発表されると、うずらさんは「おれ!スタッフだから!!違うでしょ!!ダメでしょ!!!」と必死に抵抗するんですよね。結構暴れてた。それをスタッフでステージに押し上げ、ニヤニヤと舞台で迎えるゆーすけべーさん。っというのが私にとってYAPC::Asia 2014の一番鮮明な思い出です。

何が言いたいかというと、これはただトークを聞くだけだと体験できないその場にいた人たちの物語だったなと。こんなざわざわがYAPCなのかなと。

結果として、あのゲスト対談、Japan.pmで好評だった大井町.pmによる裏トーク、ネコトーストラボさんのオリジナル絵文字企画、YAPC川柳、YAPCチキンなどに繋がりました。

YAPC::Asia 2014のベストトーク表彰の一幕 ©JPA

下準備④:お金のこと

今回のYAPCは結果数百万円の支出がありました。オフラインで開催していた時より支出は減りました*1が、チケット代だけで賄うなら1枚10,000円は優に超えます。お金の出入りを考えると開催前にお金は必要だったりとお金はカンファレンスの心配事のひとつで、収支が真っ赤っかならYAPCは失敗だと思ってます*2。たとえ、参加者の体験がよかったとしてもです。

この問題は、スポンサー企業のおかげで解決しています。ありがとうございます。スポンサー企業の一覧はこちらです。もし、ぜひご覧いただければと!

yapcjapan.org

今回、オンラインになったことで、これまでオフラインの時に提供できていたバックパネルや立て看板などがスポンサーメニューとして提供できなくなったんですよね。新たにスポンサーメニューを企画、作成しました。

オンライン版のメニューに変更をしました


ノベルティの発送のしくじり。俺みたいになるな!!

ここまで企画準備の話を書いたのですが、1つだけ毛色の違うノベルティ発送のオペレーションについて書きます。カンファレンス運営に関わる人向けの話ですね。

この話を書きたいのも、ノベルティ発送はオンライン開催になって初めて発生したまぁまぁ複雑なオペレーションで、あまりノウハウがこなれてないと思うから。

今回、ノベルティ発送にはオープンロジを利用しました。オープンロジは、普通、ECサイトの商品在庫を管理するようなサービスですが、これをノベルティの在庫管理に使いました。固定費が無料で従量課金だけで済んだので試しやすかったです。

ノベルティまとめはオフライン時代のYAPCスタッフ風物詩だった

※ここでのオペレーションは、2022年1月のオープンロジの仕様を前提にしています。実際にオペレーションを組み立てる時は、現在の仕様をご確認ください。

オープンロジを使うと、倉庫へのノベルティの入庫、出庫をWebのコンパネからポチポチで配送できます。腰に優しくないノベルティ梱包作業が一切なくなり、感動しました。

具体的には、次の4ステップで、ノベルティを配送しました。

  1. カンファレンス運営は、倉庫にいれる商品(ノベルティ)を登録する
  2. カンファレンス運営は、入庫用の商品IDのわかる入庫明細書をスポンサー企業に送る
  3. スポンサー企業には、その入庫明細書の情報をダンボールに貼り付けてもらう
  4. カンファレンス運営は、すべてのノベルティの入庫が確認できたら、イベント参加者に一括送付する手続きをする

ただ、このオペだと、後述の「紙製品の別オペ」のしくじりが発生するので、次のようなオペの方がいいはず。たぶん。

  1. カンファレンス運営は、スポンサー企業にノベルティの予定をヒアリング(紙製品か否か確認)【←追加】
  2. カンファレンス運営は、倉庫にいれる商品(ノベルティ)を登録する
  3. カンファレンス運営は、入庫用の商品IDのわかる入庫明細書をスポンサー企業に送る
  4. スポンサー企業には、その入庫明細書の情報をダンボールに貼り付けてもらう
  5. カンファレンス運営は、すべてのノベルティの入庫が確認できたら、イベント参加者に一括送付する手続きをする

企業向けには次のようなノベルティ送付マニュアルお送りしたけれど、これを読むともう少し具体的なイメージが湧くかなーと思います。

スポンサー企業向けのノベルティ送付方法のご案内

実際にオペレーションして、大きく3つしくじりがありました。

1. 紙製品で別オペ発生のしくじり

まず、シール、チラシ、冊子などの紙製品のノベルティの場合、オペレーションが複雑になりました。

オープンロジでは、商品管理ためにノベルティ一つ一つに原則、管理用ラベルが貼られるんですが、この管理用ラベルを紙製品に貼るとノベルティ破損の恐れがあるので、紙の場合は別扱いにするオペレーションが発生するんですよね。

オープンロジの方に相談して案内されたのが、紙製品を「同梱物」として扱う形。ECサイトなどで商品購入をすると商品購入のお礼のお手紙がついていることがあると思うのですが、そういった「同梱物」として扱えれば管理用ラベルの貼り付けを避けられると。

この「同梱物」に該当するかどうかは、結局オープンロジの人に聞かないとわからず、シール、チラシ、冊子で確認しました。シール、チラシは同梱物として扱ってもらいました。「同梱物」として扱えなかった冊子は、オープンロジに別料金で透明袋に入れてもらってから、管理用ラベルを貼ってもらいました。

カンファレンスを終えて、関わった人みんなこのやりとりが面倒だだったろうなと思いました。そもそも、シールだろうがチラシだろうが透明袋にいれてもらい「同梱物」として扱わない方が、オペはシンプルだったかもしれないなぁと反省。あるいは、スポンサー企業にどんなノベルティを送付予定か事前に聞くなども手だったかなと。ただこれはこれでスポンサー企業がノベルティを練る時間を削る問題もあって難しい。 何にしろ、紙製品でのオペは再考の余地あり。

2. 郵便番号、住所の間違いのしくじり

PassMarketでチケット購入時に入力いただいた郵便番号、住所が市町村の合併前の旧住所の利用していたり、シンプルに誤入力になっているケースがあり、こんなケースだとオープンロジの方のコンパネが住所間違ってるよーとバリデーションしました。

購入された方へのメール確認やわかる範囲での微調整をして難を逃れたのですが、配送先の登録の時期は期限ぎりぎりで調整していたのでとても焦った。ちなむと出庫日は、開催前に必ず届くように余裕を持って10日前だったんですが、離島の船便のケースや吹雪などの悪天候ケースも加味すると丁度良かったと思ってます。

次回は、チケット購入時に住所入力間違いを気を付けるように案内したり、出庫日より前もって配送先の登録ができればと。

3. 「小林謙太」から送付のしくじり

YAPC開催直前、参加者のみなさんにこんな通知があったかなと。

「小林謙太」は私の本名なのですが、「小林謙太」からでなく「YAPC::Japan::Online 2022」から送る形にしたかったんです!不審なお知らせで、すいませんでした!

カンファレンスに関わる皆さんが私みたいにならないで済むように知見?共有をすると、誰から送るかは「依頼主」が利用されるようで「依頼主会社名」や「贈り主」は使われないので要注意を。

「一歩踏み込む」

オープニングトークで伝えた言葉について、少し補足を。

YAPCには、トークを聴いたり話したり、普段会えない人と話したり、場の空気を感じたり、いろんな楽しみ方があって、消化しきれない大量のコンテンツがあります。そんな中、YAPCを楽しむコツは「一歩踏み込む」こと、と話しました。

YAPCを楽しむコツ。オンラインだと余計にかなと。

この言葉をふり返ってみると、当日、不安をふり払いたい気持ちが出てて、言葉もストレート過ぎて、少し恥ずかしいんですが、言ってよかったかなぁと思ってます。感想ブログでこの言葉を言及してくれた人もいて嬉しかったです。

偉そうに言った手前、自分自身がどんな一歩を踏み込んだのか考えたのですが、YAPC当日は、運営のあらゆる準備をしていたので、それが自分の一歩だと思ってました。それはそれで良い経験になったので良いんですが、今考えると、一番背伸びしたことは「一歩踏み込む」という言葉を伝えたことだと思ってます。

というのも、Perlコミュニティには偉大な先輩がたくさんいて、育ててもらった恩があり、自分が伝えていいのか、自分の言葉に嘘がないと思えるか、悩むからです。もっと気軽に考えていいとも思うんだけど、超悩む!

それでも一歩踏み込んで伝えてみようと思った理由は2つ。

1つ目は、YAPC::Tokyo 2019のmagnoliaさんのオープニングトークYAPC::Tokyo 2019では「報恩謝徳」(恩に感謝し報いる)をテーマにしていたんですが、「報恩謝徳」というと少し馴染みない言葉を、magnoliaさんはわかりやすく「恩送り」と翻訳して、オープニングトークで伝えていたんですよね。運営のリーダーだったので「報恩謝徳」はいい言葉だなーと思いながら決めたのですが、magnoliaさんのオープニングトークを聞いて、その時初めて言葉に血が通った感覚があり、刺さった。その体験が1個目。

2つ目は、今回のゲスト対談準備で、うずらさんが「最近、若者に遠慮されるようになってきてる笑」と軽く漏らしてたこと。この話のせい(?)で、うずらさんは当日、「本当は今も若いと思っている」背景だった。うずらさんの悩み(?)を聞いて、技術コミュニティの先輩でもこんな悩みを持つならと勇気づけられた。これが言葉を伝えてみようと思った2つ目の理由。

本当は今も若いと思っているうずらさん

だらだらと書いてしまったせいで、一人勝手に感傷的な気分だけど、YAPC::Japan::Online 2022が、人それぞれ自分なりの一歩を踏み込むキッカケになり、思ってもなかったことの発見、新しい出会いや笑いが生まれてたら、嬉しいです。

さいごに

荒削りな部分もあったと思うのですが、また次回のYAPCをお楽しみにいただければと嬉しいです。次回のYAPCは、京都でオンラインとオフラインのハイブリッド開催を予定しています!

謝辞

モバイルファクトリーには、YAPCの準備のために多くの業務時間を使わせてもらいました。また、家族にも協力してもらって運営ができました。この場を借りて、感謝を伝えたいです。

*1:会場費がだいぶ減りました

*2:これまでのご支援のおかげで、多少、赤でも大丈夫です